シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「パトリック様お先に失礼致します」

「あぁ、お疲れ様」

長官室の扉を開けて、上位の兵士たちが挨拶をして帰っていく。パトリックは壁に掛けられたシンプルな時計に目を向けた。


「もうこんな時刻か・・・。そろそろ私も帰るとしよう」

棚に掛けられている上着を取って羽織ると、パトリックは窓を閉めて鍵をかけた。隣の執務室からはまだ灯りが漏れている。


彼は今日のことを知っているのだろうか。私が彼女に想いを打明けたことを。

知っていたとしても、彼のことだ。私にはそんなそぶりは見せないだろうな・・・。


戸締りを済ませて政務塔から出ると、いつもの通りアランの塔へと足を向けた。

3階に移動したせいで少し遠くなったエミリーの部屋には、まだ灯りがついている。開け放たれた窓からエミリーの笑い声が漏れてきた。

鈴が転がるような響きが耳に心地いい。


―――良かった。元気そうだな・・・。

彼女には笑顔が一番似合う。想いを告げたことによって、沈んだ気持ちでいるのではないかと、実は少し心配していた。

安堵の息を漏らし、パトリックは馬車止まりまで戻ると、黒塗りの馬車に乗り込んだ。


「屋敷に参る」

御者に命じるとゆるゆると進んでいく馬車。

窓の外には月明かりに浮かぶ城の庭。

ところどころにランプの灯りがちらちらと揺れている。

「モルトたち、まだ仕事をしているのか・・・月祭りまで日がないとはいえ、根を詰めすぎないよう注意しなけりゃいけないな・・・明日にでも一言っておくか」


馬車は城門を潜り、城下の街へと下っていく。

市場通りを西へ下ると、やがて前方に広大な屋敷が見えてきた。

サルマンの北屋敷よりも大きなこの屋敷には、パトリックが一人で住んでいる。

父親はすでに他界し、母親は妹と一緒に別荘の方に住んでいた。

屋敷の門の前で、急にガタッと停まる馬車。

パトリックは訝しげな表情を浮かべ、御者に訪ねた。


「どうかしたのか?」

「パトリック様、門の前に何者かがおります」

ブルーの瞳に警戒の色を浮かべ、馬車を降りると門の前にいる人影に声をかけた。


「そこにいるのは何者か?パトリック・ラムスターの屋敷と知ってのことか?」

パトリックが用心深く近付いていくと、人影がパッと走り出した。

スカートをふわりと翻し、香水の香りを漂わせた人物が、パトリックの胸にふんわりと飛び込んで来た。



「―――アリソン」

「パトリック、会いに来たわ。どうして一方的に別れを告げて、私から去っていくの?」
< 195 / 458 >

この作品をシェア

pagetop