シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「おはようございます。フランクさんいますか?」

昨日と同じ時間に、医務室を覗くエミリー。

整然と整理された医務室の中には、今日もフランクの姿はなく、昨日とおなじように助手がこちらに背中を向けていた。



「フランクさんは――今日も演習場にっ・・行っています。夕方には、戻るっ・・はずです」


今日も小鳥の治療に苦戦する助手。相変わらず小鳥はピンセットを嫌がり、くちばしで攻撃をしていた。



「助手さん、一度このコを持って手当てしてみたらどうかしら?案外うまく行くかもしれないわ」


昨日と同じ様に小鳥の頭を優しく指で撫でるエミリー。ふんわりと触れる指先が心地いいのか、小鳥は気持ちよさそうに目を瞑って大人しくなった。



「あなた、また来たんですか!?」



来ることは分かっていたのに、焦ったような声を出してサッと距離を取る助手。

そんな態度とは裏腹にすーっと染まる頬。


助手のブラウンの瞳が眩しげに細まり、ゆっくりと撫でるように動いていく。

小鳥の頭にすっと伸びた白い指、美しい肌を隠すように纏わりつくレースのショール。

窓から差し込む光に艶めくブロンドの髪、少し伏せられたアメジストの瞳に長い睫毛。

ふっくらとした唇は、さっきから何か呪文のように言葉を紡いでいる。

窓から吹き込む風にブロンドの髪がさわっと揺れ、ふんわりとせっけんの香りが漂ってきた。




「助手さん?早く治療をしないと、また暴れだしてしまうわ」



その言葉で、ハッと我にかえった助手は悔しそうに顔をしかめた。


「言われなくとも、分かっています」


ぶっきらぼうに呟くと、慌ててピンセットを動かして小鳥の傷に薬を塗った。



「しかし、あなたも暇なんですね。こんな小鳥の様子を見に来るなど。他にすることは無いんですか?」


小鳥の体に小さな包帯を巻きながら、反応を窺うようにチラッと横目で見た。少し嫌みな言い方をしてしまったか。


「そうね。暇と言えば、暇かしら。これと言って何もすることが決まっていないし・・・でも、わたしは例え忙しかったとしても、何とか時間を見つけてはここに来ると思うわ・・・だって、会いたいんですもの」


エミリーが笑いかけると、小鳥は籠の中でつぶらな瞳を輝かせた。


「会いたい?」


「えぇ、だって好きなんです。会いたいと思うのは当然でしょう?」


少し首を傾げて微笑むエミリー。助手の顔が何故か真っ赤に染まっていく。


「あなた・・な、何をっ・・・」
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