恋愛リップ
私はなんて勝手なんだろう。

先生はこんなにも私のことを考えてくれて、先生はこんなにも優しいのに、私の心は多分ただ、失恋に傷ついている。

それが一番、強く涙に変わっている。

私は本当に、なんて勝手なんだろう。

なんて子供なんだろう。


「…好きです」


先生が困るから、先生が苦しむから、泣いちゃいけない。


「…先生のことが、好きです」


泣くな。

泣くな、私。

泣いたら優しくしてもらえると思ってるのか。

やめて。

もうみっともない真似はやめて。

本当に苦しいのは私じゃない。

生徒を泣かせてしまった、先生だ。


「先生が好きですごめんなさい」


誤魔化すことも、
偽ることも、
忘れようとすることさえ、
駄目みたいだった。

どうすればいいんだろう。


ごめんなさい。

ごめんなさい。

先生が好きですごめんなさい。

ひたすら、謝る。

先生は床に落ちたリップを無言で拾って小さくため息をついた。


「…泣くな」


その声が優しくて、余計に涙が溢れる。


「…泣くなって」


先生は困ったように髪を掻きあげ、しばらくまた黙る。

秒針の音が、決定的な瞬間までを埋めている。

時が止まればいいと本気で思う反面、早送りで時が過ぎればいいと、願った。
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