彼の瞳に捕まりました!



「参ったな……」

ポツリと漏らした声が寂しそうで、思わず社長の顔をじっと見つめた。

「菜穂となら上手くやっていけるって思っていたんだ」

「社…長」

「でも仕方ないよね、その気がない菜穂に無理強いしてはいけないし」

「ごめんなさい」

「謝らないで、僕が年甲斐もなく必死でみっともないんだから……あぁ、でも」

社長は私を見つめると、悪戯っ子の様な表情を浮かべた。

「たまに食事に誘う位は許してくれないかな?」

「え、あ、たまになら」

社長の表情につられる様にそう返事をした私に、彼は嬉しそうな笑みを浮かべた。

「ありがとう」

そう言って、私の手を握るとギュッと握りしめた。

私の手を何度も握りしめて、社長は静かに帰っていった。

車が去った後を見つめながら、ため息が漏れた。

これでよかったんだよね?

誰に問うわけでもなく、そんな疑問が浮かぶ。

自分の気持ちはきちんと伝えられたから、大丈夫。

そう自分を納得させると、自宅があるアパートへと足を向けた。


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