彼の瞳に捕まりました!


コンビニで、今更なウコン入り飲料とミネラルウォーター。
それから高瀬に頼まれたタバコとお昼ご飯のおにぎりとパンを買った。

暗室で少し休んでからデスクに戻ろうかな?

そんな風に思いながら、暗室の扉をゆっくり開けた。

暗室の中に入るには、2つ扉を開けなくてはならない。
それは外の光が、部屋の中に入らないようにするためなのはもちろんの事、セキュリティ上の事もあってだ。

出版社の多くは、ゴシップ系の雑誌も出版している。
せっかくの大事な写真を他社に引き抜かれるのは絶対に避けたい。
だからこその2重の扉だ。
とはいえ、今はデジタルカメラで撮った写真をパソコンで編集する事がほとんどで、こうやって暗室でわざわざ現像する方が珍しいのだ。

暗室特有のオレンジ色の光の中、二つ目の扉の前の暗幕に手をかけさっと中に入った。

中の扉がもし開いていたら…

なんて思うと、ドキドキしてしまうから。

暗幕がきっちり重なっているのを確認して、扉をノックしようと手を握る。
二つ目のドアは、オートロックになっていて外から開くには鍵がないと開かないからだ。

仕事上暗室を使用しなくてはいけない高瀬や小此木さんはカードキーを持っているが、編集の私にはそれはなくて、中から開けてもらうしか方法がない。

ー高瀬、開けて。

そう、声をかけながらドアをノックしようとして……

全ての動きが止まった。


暗室の中から、聞こえるはずのない声が聞こえてきたから。

その声は、この場所にそぐわないもので……
外の空気を吸って、少しおさまった頭痛が再びひどくなる。
そんな声だった―――



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