ボクは桜、キミは唄う
あ……柚木君はいつもホック留めてないんだった。

ポカンと開いた口のすぐ下で、同じようにポカンと開いた首元を見て、さっき考えた事を訂正。

柚木君は、どんな時「俺は男だ」って思うのかな。

留めるはずのホックをわざと外す時?

「きゃっ」

掬い上げたメダカがピチッとはねた。

このメダカとザリガニは、先生が中学生の時に教室で育てていた子孫の子孫の、そのまた子孫の子孫らしい。

卵が孵る度、こうして自分の受け持つクラスで育てる日を夢見て、大切に飼っていたとか。

たくさんの思い出が詰まってるから大事にな、と先生は言っていた。

そっと柚木君に視線を移すと、私の声に少しの反応も見せずに爆睡のまま。

私が思うに、彼は遅刻しない為に、早起きして学校に来てから眠ってるんだろう。
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