仇恋アベンジャー
でも、警察なんて呼ばれてはたまらない。
背に腹は代えられなかった。
とりあえず、私がこの家に悪さをしに来たのだとは思われないようにしなくてはと考えた末に出てきた言葉だった。
恵一の名を聞きつけた彼女は、にっこりと顔を緩ませる。
優しい母親の顔である。
「あら、そうだったの。でもごめんなさいねぇ。恵一、今はうちを出てしまっているのよ」
表情と声色から、彼が愛されているのだとわかる。
息子の話題が出て嬉しいが、離れてしまって寂しいという気持ちが伝わってきた。
彼女の笑顔に安心した私は、少しずつ冷静さを取り戻していた。
「それと」
私はやっと本来言うべきだった言葉を思い出した。
次の言葉を聞いた恵一の母は、何か特別な反応を示すだろうか。
ぎゅっと両手に力を込める。
「松井紀子の、娘です」