Rest of my Prince
 
少しずつ、刹那様の"虚無"の顔も崩れてきている。


心から嫌悪する存在によって、刹那様は生彩を取り戻す。


実年齢は、紫堂櫂より遥かに上なれど、彼の時間は止まっているのなら。


動き出すその"刻"は、真実の"生者"たる彼らと同じ進み方で。


「久遠、ジェットコースター乗ろうよ!!!」


少女が叫ぶ。


刹那様を、あえて"久遠"と呼ぶ少女。


そして彼らの誰もが、"久遠"と呼ぶ。


そう――

刹那様の、現在の時は…確実に動き始めたのだ。



ふっ…と、強張った表情を崩すその瞬間が、私は好きだ。


私達を助けてくれた、お優しい刹那様に戻るその一瞬。


妖麗なお顔が綻ぶそれは、本当に嬉しそうで。


「誰がせりとなんか乗るかよ、そこらへんの愉快な仲間達と乗ればいいだろ!!?」


相変わらずの、正反対のお言葉だけれど。


「ほら、早く、早く!!!」


少女は判っている。


そんな言葉を発しても、必ず少女の方に歩む刹那様を。


彼は"死者"ではない。


此処の地で在る限り、彼は何処までも"人間"なのだ。
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