Rest of my Prince
 
「なあ、師匠達は姉御とは昔からの付き合いなんだろ? どんな修行をしてたのさ? 如月が縮こまる程、過酷なものだったのか?」


遠坂由香が、テーブルに両肘を突きながら俺達を見渡した。


「あ、そうだよね。あたしはちらりと煌の修行を覗いたことはあるけれど、皆のは知らないや。というか、櫂。あんた…堪えられる根性あったの!!?」


今更――だ。

8年経って、何を今更。


「まさか12年前から修行していたとか…それはないね。第一、緋狭姉はあまり家に帰ってきてなかったし。緋狭姉、櫂を溺愛してたよね。帰る度に、お菓子一杯買ってきてさ」


――ほら坊。好きなだけ喰え。


「はあ!!? 菓子!!? 何だよそれ!!! 俺なんかくれるのは拳骨や平手打ちばっかなのに!!! 玲、お前はどうだった?」


煌が声を上げて、茶を運んできた玲に訊けば、


「んー。ムチばかりでもなかったな。たまに優雅に…緋狭さんがくれたケーキを食べて雑談したり。まあ…からかうのは相変わらずだけど、鍛錬自体は随分と穏やかだったよ?」


「はあ!!? ケーキ!!? 穏やか!!? 何だよそれ!!? 俺なんてガキの頃から、殺す気かって思うくらい容赦なかったんだぜ!!? 手足手錠つけられて海に沈められるわ、崖から突き落とされるわ、1週間の断食後にクマと闘わせられるわ…。今だって似たようなもんだけどよ」


ぶるぶると身体を震わす煌。


「煌…あんたよく生き抜いてこれたね。ちょっぴりあんたを見直した」


芹霞の目が同情に潤んでいる。


やはり潤んだ褐色の瞳は俺を向く。


「櫂、たまに緋狭姉と鍛錬することあるよな。そん時はどうなんだよ?」


「今か? 今も8年前と同様、そんな無茶はない。一般的なものだと思うがな。だけど…8年以上経っても、手よりまず口の方にやりこめられる」


「へえ…紫堂も姉御の"口"には敵わないんだ」


遠坂は三日月型の目で笑う。


「口だけではない。全てに敵わない。

…今は――な」


そうにやりと笑った。
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