Rest of my Prince
 桜Side
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私には、思い出して語れるほどの、緋狭様との思い出はない。


力を求めて止まぬ私にとって、噂に聞く"五皇"という存在は羨望の対象で、その中でも女ながら"最強"と呼ばれる紅皇という存在は特別のものだった。


力を欲する者にとって、体格という問題は避けて通れるものではなく。


欠点をカバーする為の"敏捷さ"を高めたとて、長期戦になればなるほど、ただ不利になるばかり。


ましてや女の身であるのなら、どうしてもその力は男には敵わぬのが常なれど、非情と名高く足1本で従えさせるだけの力をもつ氷皇に、初めて"手"を使わせることが出来たのがその女とは…私に希望を抱かせた。


強さとは体格と無関係だと、そう私が確信出来る程に…私は自らの腕を磨き続けたけれど、その自信を打ち砕いたのはまず玲様。


優しげな微笑みは崩れることなく、即座に私は地面に這いつくばった。


初めて、"負ける悔しさ"を感じた相手だ。


そして――

その玲様が敵わなかったという櫂様には…。


――お前が『漆黒の鬼雷』か。


直接闘ったことはないけれど、ある程度の腕になれば初対面で判るのだ。

相手がどれ程の実力の持ち主か。


櫂様の力は…私の想像を凌駕するもので、

――未知数過ぎる、大きなものだった。


初めて"畏怖"を感じた相手だ。


そんな2人の元で、警護団長という役目についた私は、そこで…初めて緋狭様に出会った。


退職されていた緋狭様は、利き腕を無くした隻腕で。


"神々しい"


かつてのそんな賞賛の異名を覆す、その奔放さに衝撃を受けて驚いた。


私の中で勝手に作っていた紅皇像が、がらがらと音をたてて崩れた瞬間だ。


人間…此処まで堕ちるものか、と。


口を開けて固まったままの私を見て、緋狭様は大爆笑。


櫂様方は…苦笑いをしていた気がする。


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