華麗なる偽装結婚


「…いえ。分からなくていいの。
ただ、あなたに感謝しないと」


「…は?」


不思議そうに私を見る社長を見上げて微かに微笑む。

そう。
…そうやって気付かせてくれたらいい。

私が気持ちを伝えようだなんて思う前に、これが偽りなんだとその都度教えてくれたら。


さっき、部屋にあの女性がいなかったなら私はきっと彼に愛を告げていた。

そうする事が間違いである事すら気付かないままに。


そうしてしまうと何が残るの…?

深い躊躇いと、強い拒絶。
傷付いて、大きな溝を作って、
きっと仕事すら共に出来ない関係になる。


今、全てを失う事がお互いに得策とは言えないわ。

この気持ちはやっぱり知られてはいけない。

二度と軽はずみな行動はしない、と私は強く心に刻んだ。




< 162 / 252 >

この作品をシェア

pagetop