碧いボール

碧いボールと部屋

部屋を出たとたん、あたしはなぜか懐かしい感覚にとらわれた。
前に一度、きたことのある思い出の場所。
あたしはみんなを置いて、何かに導かれるように一つのドアの前で立ち止まった。
すぐにあとからみんなが駆け寄ってくる。
「ここなの?」
麻紀が言った。あたしは返事をしなかった。
ギィ、と鈍い音を立てて部屋のドアが開く。
あたしの心臓は壊れてしまうかのように暴れていた。
そこは夢で見た部屋。
なぜか涙が出てきた。薄暗い空間の中に広がる霧、それを掻き分けて進んでいく。
探す必要なんてなかった。
あたしが杏に条件を下されたひから、運命は決まっていた。
あたしたちはここに導かれる運命だったんだ。
夢で見た光は確かにあった。その先に、空が見えた。
・・・ん?空?
あたしは自分の脳内で映像を再生した。
この部屋に窓は一つしかない。
でも、その窓は汚くて、空の色なんか映さない。
「みんな!」
あたしが大声で叫ぶと、みんなが目を輝かせて駆け寄ってくる。
あたしの手には、たしかに大空があった。
温かい感動に包まれて、あたしたちは部屋を出た。

「先生!!」
「ん?おお!!!」
あたしは走るよりはやく、芦田に大空をパスした。
「これは・・・見事だ。何年ぶりだろう・・・これを見たのは」
「「「え?」」」
「あ・・・すまん。つい」
「どういうことですか、先生?」
あたしが尋ねる。だけど、杏派の人たちはみんな浮かない顔をしている。
「ごめんな、相川。すべて、先生なんだよ」
それから芦田は色々なことを告白した。
一番辞めたがっていた麻紀を筆頭に、杏派の人全員であたしに碧いボールのことを持ちかけるように言ったこと。自分が復帰したと見せかけて、強くなろうと言ったこと・・・。
「全部、計算だったんだ。だけど、ほんとに見つけられるとは思わなかったよ」
芦田が続ける。
「これな、染めたの、俺の同級生の女子たちなんだよ」
「え?!」
これは杏派も知らなかったようだ。
「俺が言ったんだ・・・今日は空が綺麗だな、って」
あたしたちは一言も話さない。
「部室にかざっておこう。そして、俺達がこれをいただくからには、かわりが必要だよな」
芦田が空気を変えようと声を上げた。
「ごめんな。騙すつもりじゃなかったんだ。ごめんな」
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