ケイヤク結婚
「なあ、なあ。付き合ってる女がいたのかよ。そんな素振り、全然無かったのに」

 気色悪いほどくっついてくる竹内に我慢ならずに、俺は自室のドアの前で足を止めた。

「付き合っている人間はいない。今日、理沙が連れてきた女性と入籍をした。それだけだ」

「理沙ちゃんが? 珍しいなあ」

「珍しいんじゃない。初めてのことだ」

「だよなあ。へえ、理沙ちゃんがねえ。んで結婚しちゃった、と」

 えへへ、と気持ち悪い笑い声をたてて、竹内が俺の背中をツンツンとひとさし指でさしてくる。

 俺はその腕を払うと、「話は終わりだ」と自室のドアを開けた。

「でもさあ。お前が結婚だなんて……。なんか涙が出てくる」

 俺が振り返ると、眼球を真っ赤にして本気で涙を浮かべていた竹内がいる。

「泣くな」

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