君のための嘘
「お飲物でもいかがでしょうか?」


ぼんやり宙を見ていた夏帆に、通りがかった客室乗務員の女性が立ち止まり話しかけた。


「あ……はい コーヒーを貰えますか?」


熱いコーヒーでも飲んで悩む頭をスッキリさせたかった。


夏帆は自分なりに霧生ホールディングス社を調べてみた。


繊維業から宇宙開発まで幅広い事業の会社だった。現会長は霧生 泰造(きりゅう たいぞう)81歳 夏帆の婚約者となった霧生 貴仁については何も載っていなかった。


そんな地位も財産もある人が、一度も会った事のない私と結婚するなんておかしい。私でなくとも、財産に惹かれる結婚相手を見つけるには苦労しないだろう。よほどの変人なのか、容姿が誰もが敬遠してしまう人なのか……。


どんな人かも分からない人と結婚するなんて出来ない……。


夏帆はいつも不安な時にやってしまう癖で下唇を噛んでいた。今も心の中の焦りと困惑、これからどうすればいいのかと考えすぎてつい下唇を噛んでしまっていた。




< 3 / 521 >

この作品をシェア

pagetop