君のための嘘

ささやかな抵抗

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朝食も昼食も残さないように夏帆は必死に食べた。


食事が運ばれる時は、ドアの方へ背を向けてラルフと顔を合さないようにしていた。


聞きたい事はたくさんある。


だけど、今は素直に聞けないし、聞きたくない気持ちもある。


夏帆の心は嵐の中、荒れた海に浮かぶちっぽけな船のように揺れていた。


そして、寂しくて仕方ない。


本当はラルフに抱きしめられたかった。


静かにドアがノックされた。


ドア側を向いて横になっていた夏帆は慌てて反対側を向いたと同時に、静かにドアが開いた。


トレーをサイドテーブルに置く音がしたが、ドアの閉まる音は聞こえない。


まだ部屋にいるラルフの視線に夏帆の心臓はドキドキと暴れ始め、瞼を閉じて掛布団をギュっと握る。


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