君のための嘘
「毒を盛ったわけではないでしょう?大丈夫、お腹は丈夫な方なので」


そのままお皿をテーブルに運ぶ背中をあっけにとられて見ていた。


「本当に美味しくないんです……後で胃薬飲んでくださいね?」


仕方ないと、夏帆はもう一皿を手にしてテーブルに運ぶ。


これは自分の分だ。


トーストも焼けすぎている。


もっと最悪なのはコーヒーがものすごく濃い。


席に着いて、お皿の中身を横目に見ながら、まず一口コーヒーを飲んだ夏帆はその苦さに顔を顰めた。


「眠気の覚める濃さだね」と、ラルフは笑いながら言った。


「……本当にごめんなさい 私お料理、苦手で……」


「それでも僕の為に作ってくれようとしたんでしょう?」


極上の微笑みを浮かべたラルフに、夏帆の心臓はひとつ大きく飛び跳ねた。



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