リアル




薫は返す言葉を見付けられずに黙り込んだ。


急激に口の中が渇いていく感覚を覚えた。


この七年、幾度となく思い返してきた。


いや、忘れたことなどなかった。


少なくとも、そう思ってきた。


しかし、実際は違っていた。


何もかも具体的に思い出すことを避けていたのだ。


あれから確実に月日は経ち、少しではあるが、傷を癒している。


他人と深く関わってはいけない、幸せを望んではいけない。


そう言い聞かせて、それで罪を償おうとしていただけ。


本心からそう思っていたわけではない。


涙が溢れてきそうだった。


何処までも汚く醜い自分に。



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