リアル




「仲がいいんですね」


美緒は薫に視線を戻して言った。


「早くに両親が亡くなって、二人きりの家族だから。でも、この子ってば、私の苦労なんて何一つ知らずに、まだフリーターなのよ」


薫は困っちゃうでしょ? と付け加えて肩をすくませた。


幾ら作り話とはいえ、自分が不甲斐ないと言われるのはいい気分ではない。


隆は演技ではない不貞腐れた顔で水を飲んだ。


だがそれが功を奏したのか、美緒がくすりと笑った。


「美緒さんは、ご実家が歯科医院なの?」


薫は更に質問を重ねる。


だが、美緒はそれをただの世間話だと思っているのか、躊躇うことなく答えていった。


「実家は、祖父の代からの総合病院です」


「普通のお医者様にはなろうと思わなかったの?」


薫の質問に、美緒はええ、と頷いた。


美緒の実家が何であるかなど、生野がとうに調べている。


なので、あくまで長く話を聞き出す為なのだろう。


隆は若干のつまらなさを感じていた。



.
< 164 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop