受付レディは七変化。

食事は、自分とは馴染みがなさそうな高級そうな店だった。
郊外の静かで隠れ家的なレストランで、自分の食べたことのないようなものがたくさん出た。
そもそもイタリアンってのはピザとパスタなんだろうなぁっていう想像はつくが、フレンチってなんだよって感じだった。

いわゆるこう、結婚式に出てきそうな料理で、内容もすこぶる美味しかった。
初めての料理にモクモクと・・・っていうか結構バクバクと食べる私に呆れてたのか、充永は割りと私の顔を見ていた気がする。
視線に気がついて私の方はそちらを見れず、食事に集中するしか無かったのだが・・・。
たまにちらりと顔を伺うと、なんだか 普段しないような優しそうな顔で笑っているもんだから、余計に顔が見れなくなってしまった。

そして一度私がお手洗いに立ったタイミングで、会計などを済ませているような男だから、ボンボンのくせに気が回るな、としみじみ思う。
と同時に、少し位お金を出したかった、と店に出た途端文句をつけた。
そりゃ・・・雀の涙かもしれないけどさ。
しかし充永はがんとして受け取らず、
「お礼」
の一点張りだ。
真っ暗な春の夜空。遅れたサクラの花びらが散るロマンチックな世界で、
その世界に似合わない棘のある声を返す。
「いや、お礼はもらったってば。」
私は着ているワンピースの裾を握る。
こんなに素敵で高いワンピース、絶対に自分では買えないんだからね!
と帰りの夜道で宣言すると、充永はくっくっと耐えるように笑った。
そとあと、充永は星々を眺めるように夜空をあおいだ。
「・・・あと、変な話しちゃったから」
ことばが、人通りの少なくなった夜道にすっと響く。
「え?」
変な話?
私の不思議そうな顔を面白がるように、彼はニカッと口角を上げる。
「あの話しして、深く突っ込んでこなかったり、カワイソウなこと聞いちゃったね、とか、言われなかったの初めて」
そう言われて、はじめて彼の兄弟の話であったことに気がつく。
そのくらい、彼の表情はあっけらかんとしていたのだ。
「それをまさか、無言で見つめられるとは」
フツウ、顔そむけるでしょ、と彼はまた夜空に向かって笑う。
私は散りゆくサクラに囲まれるその姿をずっと見つめていた。

・・・だって、そむけたりなんか出来ない。
私が同じような話をした時に、人から顔をそむけられたら

『ああ、また変な話をしてしまった』と思うだろう。
かといって、この手のひねくれたタイプに慰めるのも違うだろうし。
勿論 弟が取締役だなんてどういうこと?って一瞬思ったりもしたけど

・・・そこを深く聞けるほど、私たちは親密じゃない。

選択肢は、ただ顔をそむけずに聞いてあげることしかなかったのだ。

「・・・まーた、見つめてる。」
そう言ってコチラを向いた彼の瞳を、私は見つめ返していた。
目を背かなかったんじゃない、背けなかったのだ。
先程まで笑っていた彼の顔は、眉毛が八の字に下がって・・・少しだけ耐えるように眉根にシワが寄っていた。




その手が頬に触れられるのも、顔が近づいてくるのも、吐息が唇へかかることも、避けなかったんじゃない。
避けられなかった。



知りたいとおもったのだ。
彼の抱えるもの全て。その耐えるようにシワの寄った眉根に集められたもの全て。
彼の奥底を深く聞けるほど、親密になりたい。
そう思ってしまったのだ。





それがどういうことか、よく考えもしないで。


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