シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

・苛立 桜Side

 桜Side
****************


イライラ、イライラ。


苛立ちが止まらない。


原因は、やはり馬鹿蜜柑。


主の危機に、何と協力を拒否した大うつけ。


私達は櫂様に仕える身で、日頃、臣下以上のご配慮を賜っているくせに、更には"幼馴染"という名の元に、好き放題することや櫂様の想い人を横恋慕するのでさえ、許して貰っているくせに・・・。


何たることだ!!!


此処まで馬鹿だったとは。



原因なんて判っている。


単純駄犬の安い独占欲に他ならない。


己は取柄なしだと信じるあの馬鹿犬、櫂様玲様に無謀にも張り合うその最終手段として、芹霞さんと"同じ家に住んでいる"ということに、余程"特別性"を持たせていたらしい。


しかし芹霞さんから唯一"永遠"を約束されている櫂様は、昔この家に住んでいたらしく、この家の細部を良く知っていて。


何よりこの家での彼らの思い出は、現在尚も続く"永遠"へと至るだけの、煌の与(あずか)り知れない"濃密なもの"であったのは間違いなく。


それすら予想出来ずに、朝櫂様と芹霞さんを起こしに行って、まざまざと"見せつけられた"のだろう。


芹霞さんと唯一"お試し"した玲様は、いつもの通り芹霞さんが大喜びする料理を作っていて。


玲様はさりげなく――

芹霞さんがいる時は、"愛情"を込めやすい料理を作り、それを喜んで口にする芹霞さんを見て、本当に満足そうに微笑む。


それは場所が変わっても同じこと。元より料理というものは、場に用意されているものを使わねば作れない。作る以上は、勝手に動かざるを得ない。


私がお手伝いに動くのは当然のことだし、最近は…緋狭様の修業の後、この家でお茶を頂いているから何処に何があるかは大体判ってきたし、遠坂由香は何度も宮原弥生と、芹霞さんの家でのお泊り会をしていたらしいから、この家に慣れている。


日頃マーキングを強化していたはずの駄犬は、目の前であっさり自分のシマを荒らされたと思って…飼い主に噛み付いたのだろう。


あの男は至って単純な造りをしているから、脳内で"家"="芹霞さん"に変換されていて、自分だけの芹霞さんを奪われた気になって、焦って私達を追い出そうとしたのだろう。


櫂様と玲様を相手にして。


自分の領域なら"亭主気取り"が正当に罷(まか)り通ると思っているあたり。


本当に馬鹿だ。


馬鹿すぎて溜息しか出てこない。




< 192 / 1,192 >

この作品をシェア

pagetop