シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

・懸念 桜side

 桜Side
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奇門遁甲――。


太古、黄帝と呼ばれた伝説上の王が、蚩尤(しゅう)という敵を討伐に行く際、蚩尤の妖術を破る手段として、夢で九天玄女により授けられた術とされている。


諸葛孔明を始めとして、中国の名軍事達が受け継いだその奥義は、時の男達を戦勝に導き、現在は方位の吉凶を見定める方位占術としても、日本にも流れ込んでいる。


あの男が放った術が、本物の奇門遁甲か検証する術はないものの、例えそれが紛(まが)い物であったとしても、潜在的なものは置いておいて、彼が現皇城翠程度のレベルではないことは確かだ。


皇城翠は、あの…朱貴と呼んだ男を、自らの兄皇城雄黄に並ぶと比喩していたが、もしそれが本当ならば、今まで裏世界(アングラ)にも名が轟いていないのは不思議な気がする。


芹霞さん、玲様と同様…蝶が見えるだけではなく、突如現れたあの黄色い外套男を見て、"五分五分"と表現した。


虚勢とは思えぬその響きは、奇門遁甲によって遮られた。


私は感じている。



きっとあの男は無事だ。



しかし、恐らく黄色い外套男も無事だろう。



黄色い外套男と、どんな係わり合いがあるのは判らないけれど…味方同士でもなければ敵同士でもない気がする。


――渋谷同等…誘い込む気ですか。


――どいつだ。"魅入られた"奴は…。


何かを知っているのだろうか。


――お前が…"凶星"か。



あの男は――…

関わるのは危険な気がする。



芹霞さんに近づけさせたくない。


それは虫の知らせのような…悪い予感。


テディベアをぎゅっと抱き締めずにはいられなかった。

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