シンデレラに玻璃の星冠をⅠ


風の力を操れる櫂様が、代わって制御してくれたのか。


そして恐らく。


雨も…風で弾き飛ばしてくれたのだろう。


あんな暴風、暴雨を、いとも容易く。



ああ――

私の主は、何て偉大なのだろう。



いつにまして、神々しい。


櫂様にお仕え出来たことが、本当に誇らしい。


皇城家に縁がなくて、心底よかったと思った。


「はい。櫂様のおかげで助かりました。ありがとうございます」


私は、すたんと…ガタガタの床に降り立ち、櫂様の前で頭を垂らす。


後方で項垂れる皇城翠の気配を感じたけれど…私は言葉を取り消さない。


私は、櫂様に救われたのだ。


そして奇妙なことに気付く。


「BR001は…」


ないのだ、銀の男の気も…


「一度退いた。緋狭さんと共に」


……緋狭様の気も。


そ呆気ない幕切れに、私は目を細める。




「桜――

理事長室へ行く」



櫂様は強張った声を出した。


何か――あったのだろうか。


緊急事態を感じ取った私の前に、不意に橙色がふらふらと横切って。


「小猿…抱きつかせろ~。俺、お前なしでは生きていけねえ…うっぷ…」


口を手で覆った煌が、皇城翠に抱きついた。


世の常識を超えて、犬が猿に抱きついた。


それくらい、馬鹿犬は切羽詰っていたのを我慢していたらしい。


「ひっつくな、馬鹿ワンコッッ!!!!」


「はあ…。やっぱ、お前いると落ち着くわ~」


キーキーキーキー煩いけれども、橙色の犬にとって、そんな猿の鎮静効果は抜群のようで。


「は、はあああ!!? お前葉山はどうしたんだよ。おい、俺は…そんな趣味はねえっ…ぐ、ぐるじい~、ご、誤解される、葉山、おい葉山~ッッ!!!」


何で私の名前が出るのかは判らないけれど。


それを解明したい欲求は毛頭無い。


煌が落ち着いたのなら、それでいい。

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