諦めないで、幸せを求めて噛ませ犬になろうとも


少年は渉(わたる)と言った。


どこにでもある普通の名前は、今流行りのキラキラネームの犠牲を受けなかった少年らしい名前。あの格好をする性格で光宙(ピカチュウ)などと名付けられたら首を吊っても良さそうなものだが、いかんせん、渉の名前――正確には姓だが、通常では読めない漢字なのだ。


春夏秋冬。
これで『ひととせ』と読む。


一年(ひととせ)を意味する姓だが、ケータイ変換でも出ず、仮にメールで春夏秋冬と入れるさいに、決してそこは『ひととせ』ではなく『しゅんかしゅうとう』として入力するだろう。


変換された漢字にルビはなく、『渉の姓は春夏秋冬』と打ってばご覧の通り果たしてひととせと打って出したのかは誰にも分かるまい。


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