サンドグラス ~アルツハイマー闘病記~
だが、

二人の気持ちとは裏腹に

有喜の病気の進行は

エスカレートする

一方だった。

有喜は

今まで以上に

物忘れがひどくなり、

時には

日記を書いていたことすら

忘れることもあった。

だが、

日記は今までの

自分達の気持ちや

行ったことが書いているので、

純一と

一緒に読むことで

なんとなく

記憶が思い出せていた。

純一が選択した日記帳は

あながち

有喜に対しては

間違ってはいなかった様だ。

ある日の夜、

有喜が

夕食の時間になっても

リビングに下りてこなかった。

何度か呼ぶが

返事もない。

純一は家中

探し回った。

「有喜~!

 有喜~!」

大声で叫ぶが

どこからも返事がない。

純一は焦った。

裸足のまま

外へ

かけ出て行った。

「有喜~!

 有喜~!」

思いつく場所を

片っ端から探し、

走り回った。

と、遠くにうっすら

女性の人影が見えた。

有喜?!

おもわず純一は叫んだ。

「有喜!!」

「純一?

 どうしたの~?

 汗びっしょりー!」

有喜の目は

明らかに座っていた。

「こんな夜に

 女の子が一人歩いてたら、

 変な人に

 襲われるぞ!

 俺、

 今有喜を失ったら

 立ち直れないよ…。

 危険な真似だけは

 やめてくれよな…。」

意味が分からない有喜に

純一は一生懸命

訴えた。

有喜が

徘徊しだすなんて…。

今まで以上に

気をつけとかないと、

いつどこに消えても

おかしくないなぁ…。

純一は

心の中で

有喜の対応について

試行錯誤していた。

家に帰り、

純一は

すぐに有喜のパジャマや

部屋着に

名札を縫いつけた。

いつ

どこに行っても

誰かが連絡してくれるように

なるべく目立つところに

縫い付けた。
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