蝶が見る夢
それに映すは
どこかでサイレンが聞こえた。
救急車と、パトカーの共鳴。
この街に身を寄せていれば、こんなことは日常茶飯事だ。














まどろみの中で、匠が布団に潜り込んでくるのが分かった。
目を閉じたまま、掠れる声を振り絞って「お帰り」と発すると、「ただいま」という言葉とキスが帰ってきた。
匠は極めて静かにベッドに入るが、それでも私には分かってしまう。
最初のうちは「ごめん、起こしちゃったね」という謝罪があったものの、いつの日にかそれはなくなって、代わりに夢うつつの私に今日の出来事を話し掛けるようになった。
匠はお喋り好きだ。
職業のことを考えれば、それは決して悪い癖ではない。


「今日、ナオが乱闘起こしちゃってさあ」


ナオとは、匠と同じくセーラムで働くホストの子。
匠や私よりいくつか年が下で、匠が一番可愛がっている子だ。2、3度、匠と3人で飲んだことがある。
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