トツキトオカ
マタニティビクスのスタジオは産院と同じビルの6階にあり、そのビルにはエレベーターが無いので6階まで階段を使って上がらなければならなかった。

「これから運動しようとしている人がエレベーターなんて使ってどうする」

両親教室で院長が言っていた言葉を思い出した。

なるほど確かにごもっともだが、きょうび6階まで階段を使うことなんてなかなか無い。

万年運動不足の私は3階辺りで脈拍が早くなり、息が切れ始める。

やっとこさ6階に辿り着いた時には「ゼーゼーハーハー」と肩で息をする始末である。

そして暑い。

2010年の猛暑ほどでは無いが今年だって夏はやっぱり暑い。

汗を拭きながら入り口の扉を開け、体験に来たと告げるとスタッフの女性がロッカーに案内してくれた。

持参したTシャツとレギンスに着替えてスタジオに入るとそこらじゅう、お腹の大きな妊婦だらけ。

マタニティ専門のスタジオだから当たり前なのだが、たくさんの大きなお腹に圧倒あれてしまった。

毎日自分のお腹を鏡で見て、「だいぶ出てきたなー」と思っていたが、まだまだ甘いことがわかった。

はちきれんばかりのお腹を抱えた妊婦さんたちが楽しそうに談笑している。

当然知り合いのいない私はひとりで隅の方に座り、壁に貼られたポスターなんかを眺めていた。

いい年こいて人見知りの私はこういった場所が何とも苦手だ。

作られた輪の中に入る勇気も元気も無い。

ようやく線の細いインストラクターが登場し、レッスンが始まった。

足踏みのステップから始まり、徐々に心拍数を上げる激しい動きへと変わる。

途中ストレッチや筋トレも加わり、飽きのこないプログラム編成になっているが、集中力の無い私はどうしても他の参加者が気になってしまう。

スタジオの前と横に張られた鏡を利用して周りの妊婦さんをチラチラと観察し続けた。




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