黒の本と白の本
 黒の本を持っていた女の隣では、白の本を抱えた女が、白の本から出てきた醜くヨボヨボの老人と対面しています。
 その老人の顔はとても醜くおぞましいものでした。
 体から漂うあらゆる物を腐らせたような腐敗臭。
 白の本を持った女は、その白の本から出てきた老人を大層あわれに思いました。
「おじいちゃん、貴方はまずその体をどうにかしたほうがいいわね。そのままでは、誰ともお話できないでしょう。最初の願いは貴方の体を綺麗にすることにするわ」
 そういって、白の本の女は白の本から出てきた老人へと笑いかけました。
 白の本から出てきた老人はその声に深々と頭をたらしました。
 そして白の本から出てきた老人が下げた頭をあげると、清潔な身なりに変わっていました。
 顔を背けたくなるほどの腐敗した臭いは無くなり、石鹸のいい香がします。
「これでいいかの?」
 白の本から出てきた老人は掠れた声で白の本の女に問いかけます。
「ええ、これでまともにお話が出来るわ」
 白の本の女は頷きます。
「次は何にする? 隣の姉のように、金か? 権力か? それとも、美貌か?」
 白の本から出てきた老人は再び問いかけます。
 その言葉に白の本の女首を振りました。
「私はこれ以上願い事なんてないわ。今のままで満足しているの。お金だって必要な分だけ働いて貰えればいいし、権力だって私にはいらないわ。大切な人だけそばにいてくれたらそれでいいの……容姿だって、父と母がくれたこの姿で十分満足しているわ」
 と答えました。
 白の本から出てきた老人はその言葉に「そうか」と短く答え
「では、必要になったら呼ぶがいい。お前の願いはあと2つ残っている」
 白の本から出てきた老人はそう言って、白の本の中へと消えていきました。
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