△~triangle~

……和也は何も聞かない。

突然ずぶ濡れの僕がこの店に現れた時も、和也は何も聞かずに僕をこの店に招き入れてくれた。

……いや、彼は知っているのかもしれない。

彼に話した事は無かったが、人一倍勘の鋭い彼は、僕のこの状況の理由を……分かっているのかもしれない。

僕と……明の事も。

何故なら彼は、明の事を口にしなかった。

彼は明とも面識があり、明もこのバーに遊びに来る事があった。

そしてあの……真弓さんも。

遠い昔に感じる沢山の思い出が頭を過り、それは僕の胸を酷く苦しくさせる。

「……諦めろよ。もう……選んだはずだろ」

そう自分に言い聞かせるように小さく呟くと、埃っぽいボロボロの毛布を頭まで被り、無視やり眠りについた。
< 284 / 451 >

この作品をシェア

pagetop