△~triangle~
……言葉は……いらなかった。
ただ繋いだ手の温もりを感じながら、歩き続ける。
さっきまであんなに感じていた不安も、恐怖も、孤独も……何故だか今は感じない。
そっと空を見上げれば、美しい赤い空が広がっている。
そんな不思議でまるで夢の様な世界の中、この手の温もりだけが本物の様に感じた。
今思えば……それはとても簡単な事だったのかもしれない。
ちゃんと向き合えば、確かに見えた筈の心。
僕はどれだけ目を背けてきたのだろうか。
……向き合わなくてはならない。
僕が目を逸らしてきた、沢山のモノに。
何よりも大切な弟の事を……そして、いつまでも心に残る……優しい母の記憶を。
「……夕焼け。……綺麗だね」
その彼女の呟きに、振り向く事はしないまま、キュッと彼女の手を握り締める。
「……うん。本当に……綺麗だ」
そう言って小さく笑うと、彼女はコクリと頷き……そっと僕の手を握り返してくれた。