リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
一口。二口。
バニラアイスを頬張るごとに、濃厚な甘さが、明子の口いっぱいに広がっていく。
ホンの一瞬。
すぅっと、その冷たさが明子の体に染みていくが、それはすぐに消えていった。

テレビには、明子の心のより所と言っても言い、大好きな四兄弟の楽しそうな姿が映っていた。
掃除の分担がどうのこうのと、いつものように賑やかに、彼らは盛り上がっていた。

明子にとっては、一日のなかで一番楽しみにしている、待ち遠しい時間がやってきたはずなのに。
この一週間、この時間を楽しみに、仕事もダイエットも励んでいたのに。

いつも、明子を和ませてくれる彼らの言葉が、、全く明子の耳に届かない。
いつも、明子のときめかせてくれる彼らの笑顔が、全く明子の胸に届かなかった。

整った端整な顔をくしゃりとさせて。
いたずらを思いついた子どものように、目を細めて笑う顔が。
彼らの笑顔すら入り込む隙が無いほどに、明子の胸の中一杯に溢れていた。

考えない。
思い出さない。
そう、決めていたはずなのに。
彼のことしか、胸の中に浮かばない。

おやすみと囁いた、あの優しい声が。
耳の奥で、ずっと、ずっと、リフレインしている。

止まることなく。
繰り返し繰り返し。
まるで、絶えることなく押し寄せる、小波のように。
何度も、何度も。

おやすみを、繰り返す。



じわじわと。
乾いた大地に水が染み込んでいくように。
耳の奥から。
もっと、もっと、深い場所に。




牧野の声が、堕ちていった。



ずっと昔に封印した、幼い恋心が眠っている場所に。









堕ちていった。
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