リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
昨日までに比べれば、おいおい、ここは別天地かと、そう誰かに尋ねたくなるくらいには、部屋の中は小奇麗に片付いていた。


(頑張れば、できる子じゃん)
(あたし)


一人の部屋に、それを褒めてくれる人などいない。
だから、明子は自分で自分を褒め称えた。
世間様的にはいい年した大人が、整理整頓をできたくらいで喜んでいること自体、すでに痛い。
そんなことは明子も十分に理解していたけれど、でも、いいじゃないと、明子は自分を納得させる。


(まあ、とにかくね)
(最初のうちくらい、自分を調子づかせておこう)
(今後のためにもね)


そんな企みの元、明子は自分を誉めそやした。


(えらい)
(えらいぞ)
(がんばった)
(うん)


できることなら、今すぐここで、冷え冷えのビールを一本、くうーっと飲みたいところだった。
けれど、昨夜散々飲んだので、今日は我慢と堪えた。
一本くらいならいいじゃないかと、心の中にいる自分に甘いもう一人の自分が、悪魔の如き誘惑を囁いたが、明子は『関ちゃんの為に我慢よ、我慢』と、そんな呪文を唱えて誘惑を振り切った。
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