リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
それから、大事な食事についてもじっくりと考えた。

食事の回数を減らしたり、一つの食品だけに頼ったり、今までそんなことを繰り返していた。
今回はそんなダイエットはしないと、明子は決意した。


(いつも、それで失敗するんだよね)
(うん)
(大体ね、食べなきゃ、働かなくなるんだもん)
(あたし)


だから、バランス良くをポイントに、今回はちゃんと食べるのだと明子は決めた。
抜きがちだった朝ごはんも、必ず食べる。
うっかり寝坊しても、バナナだけでもいいから食べて、牛乳まや野菜ジュースなどを、コップに一杯でもいいから飲む。

お昼ご飯は、なるべく、手作り弁当。
ただし、冷凍食品は極力、使わない。
だからこそ、昨日は一週間分のお弁当メニューを決めたあと、大量のシリコンカップと必要な食材を買いに行き、二日続けての重い荷物に辟易しながらもなんとか家に生還して、ご褒美のみたらし団子を頬張って、保存用のおかず作りに励んだのた。
永久保存版にしてある『高杉兄弟』をずっとテレビで流しながら。
相槌を打ち、ツッコミを入れ、グルグルグルグルと、くだらない妄想を頭の中で膨らませて。
包丁に、フライパンに、鍋に。
長き眠りから目覚めよと、恫喝という名の呪文を唱えて、フル稼働させ続けてのだ。

そして、一番の難関。
夕ご飯。
家で食べられるのがベストなのは判っているけれど、夜遅い帰宅で、家ご飯というわけにはいかない。
かといって、食べないという選択も、明子には無理だった。
今までの挫折が、それを語っている。


(そうなのよ、『ひろ兄』の言うとおりなのよね)


うっかりと、夕飯は食べないなどという選択をして、夜中にお腹が空いてしまおうものなら、けっきょく、腹の虫にせっつかれて自分は食べてしまうのだ。
食べて、お腹を落ち着かせないことには眠れないのだ。
そして、次の日なって後悔する。
ずっしり感が残ったままの胃袋に、めちゃくちゃ後悔する。
夕飯を抜いて、真夜中にお菓子のドカ食いなんてことをしてしまったことを、落ち込むほどに後悔して、やがて開き直って、そのままヤケ食い街道に突っ走ってしまうのだ。
そんなことを何度も、明子は繰り返しているから判る。


(夕ご飯も、ぜったいに必要)
(うん)
(食べなきゃ、ダメ!)


とりあえず、これは打開策が見つかるまで、低カロリーのカップスープとおにぎりで乗り切ることにした。
家で食べられるときは、これからの季節にぴったりな野菜たっぷりの熱々鍋料理に決めた。


(鍋って偉大)
(いろんなものを、なんでもいっぺんに食べられるんだもの)
(ビールはね、というか、晩酌はね、金曜と土曜の夜に限定)
(それくらいのユルさは、いいよね)
(うん)
(どうして、今までこういう計画を立てなかったのかね、あたし)
(即効性ばかりを、求めすぎたんだよね)
(で、効果がないといじやけて、やけ食いして、元の木阿弥で)
(でも、今回は違うもんね)
(ちゃんと食べて、痩せていくんだもんね)


そんな日曜日の誓いを胸中で復唱しながら、明子は給湯室に向かった。
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