リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「一応。車を取りに行ったついでに、バス停まで傘を持って見てきたやったよ。いきなり、降り出してきたからな」

いなかったから、バスが来たんだろ。
牧野の懸念を察したように、牧野に背を向けたままの小林が、さらりとそう声をかけた。
その言葉に、安堵したように牧野は息を吐いた。

「部長たち、なんだって?」
「なんていうか。本題、雑談、雑談、本題、雑談みたいな感じで」

君島の問いかけに、仕事の話だかなんだかよく判らない話しが多くてと、牧野は髪を掻き乱した。

「そろそろ、再婚する気はないのかってか?」

仲人なら、いつでも言ってこいって言われたんだろ。
小林のからかい混じりの言葉に、牧野は撃沈したように机に突っ伏した。

「よけいなお世話だってんだ。ほっといてくれねえかなあ」

少しだけ、甘え混じりのふて腐たような声に、君島も笑い出した。

「夜中に家まで押しかけて、なにも進展なしって。なにしてんだ、お前」
「なにで知ってるんですかっ」

イスが倒れそうな勢いで立ち上がって問いただす牧野を、小林は意地悪げに笑う。

「俺とあっこちゃんの仲だぞ。隠し事があるわけないだろ」

何度、枕を並べて寝たと思ってんだ。
キヒヒと笑う小林に「いかがわしい言い方すんなっ」と、牧野は怒鳴った。

「大きな声をだすなよ。外まで聞こえるぞ」

苦笑混じりで窘める君島に、牧野は「だって、小林さんがっ」と、小林を指差して、まるで地団駄を踏んで悔しがる子どものように言い募った。
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