キスはおとなの呼吸のように【完】
「寒いなか、ごくろうさまです。こちらへどうぞ」

フロアを横切り、ガラス張りの社長室に案内される。

兼田社長のうしろを大上先輩が歩き、わたしは最後尾につく。

社長室にむかいながら視線をフロアに走らせた。

挙動不審なわけじゃない。
これは以前、大上先輩から学んだ技術。

スキルの低いわたしが、先輩のようにたりないものや必要なオフィス用品なんかの有力情報を拾えるかどうかはわからないけど、できることは猿まねだってすべてやるしかない。

四葉屋の二十数名の社員のデスクにはパソコンとプリンター、それにノートと大量のメモ書きが積まれているだけで、べつだん変わったところはなかった。

けっきょくなにも拾えないまま、ガラス張りの社長室に到着した。
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