キスはおとなの呼吸のように【完】
21.壊れた宝物
先輩のとなりにいた常連客が引き戸をあけて立ち去ると、いれかりでべつのお客さんがはいってきた。

わたしも知っている顔。
いつかわたしにからんできた、酔うとたちの悪いサラリーマンだ。

もう二度とこないといっていたくせに、もうしわけなさそうな表情をつくって、立ちのみスペースにお酒をのみにやってきた。

「あっ、いらっしゃい」

カウンターのむこうのカズトは心底うれしそうな笑顔であいさつする。
わたしがさっき目であやまっても、この笑顔は見せてくれなかったのに。
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