高天原異聞 ~女神の言伝~

 身を捩る美咲を、建速は落とさぬよう優しく下ろした。

「どうした、美咲?」

 建速は離れようとする美咲の腕を捕まえている。

「いや、離して!! 触らないで!!」

「美咲!?」

 必死で抗う美咲の顎を捉えてこちらを向かせる。
 その瞳は、恐怖に脅え、何も見えなくなっている。
 現実でされたことを思い出しかけているのだ。

「やめて、触らないで!! 救けて、慎也くん!!」

 建速は舌打ちした。
 穏やかに目覚めさせるつもりが、そうもいかなくなった。
 言霊の呪縛は、思ったより美咲の心の奥深くまで絡みついている。
 泣いて抗う美咲を、建速はその場に引き倒した。
 そのまま馬乗りになって押さえつける。

「美咲、言霊に捕らわれるな。戻れなくなる」

 そうして、その手を美咲の心臓の上に当て、神威を打ち込んだ。
 雷に打たれたように、美咲の身体が仰け反り、跳ねる。
「――」
 痛みに、美咲は俄に正気に返る。
 自分を縛る何かに気づいて、美咲は脅えた。
 自分の中に、何かが入り込んで、絡みついている。

「怖い……救けて」

「大丈夫だ。誰にも傷つけさせない。今度こそ、護ってみせる――」

 両頬を包み込む手の温もりを感じた。
 ゆっくりと、建速の顔が近づく。
 そして、美咲の唇に熱い熱が重なった。
 荒々しいはずなのに優しい言霊であるように、唇から神気が流れ込む。
 美咲の中に絡みつく悪しき言霊に絡みつき、消していくのがわかった。

「――」

 美咲は、そのまま目を閉じた。
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