高天原異聞 ~女神の言伝~
「ああ――」
暗闇の中に、その姿をとらえたとき、女神は歓喜の声をもらした。
迎えに来てくれたのだ。
喜びで、女神は男神へと飛びつく。
受け止めた勢いで、男神の身体が傾き、二人は倒れ込んだ。
それでも、離れようとはしなかった。
男神の上になった女神が、身を乗り出して男神にくちづける。
男神も女神の背に腕を回し、応える。
互いの吐息が淫らに混じり合うまで、何度も何度もくちづけを交わす。
「お逢いしたかった……」
珍しく見上げる女神の美しい瞳は、涙に溢れていた。
その眦に触れ、頬を引き寄せて唇で涙を拭う。
「我もだ。そなたを忘れることなどできなかった。この腕に抱きしめたくて、そなたに触れたくてしかたなかった」
「触れてください。私も貴方に触れて欲しい」
「ここでか?」
僅かに驚く男神に、女神は縋り付くように身体を寄せる。
「ええ。ここで。今すぐに」
男神の手が、女神の着物の襟元を開き、その胸元に顔を寄せる。
女神が喜びに喘ぎながら仰け反る。
離れていた間の虚しさを埋めるように互いに触れ合う。
裳裾をたくし上げられ、すでに濡れて潤っていた内腿の奥が待ち望んでいた熱で満たされる。
男神の上で、女神の身体が揺れる。
その常にない動きに、男神は堪えきれずに身を起こした。
膝をつく格好で最奥まで貫かれ、女神が喘ぐように叫ぶ。
男神は自分を締めつける女神の腰を掴んだ。
膝をついて肩にしがみついている女神の腰を持ち上げては沈め、何度も己の熱で穿つ。
交合いの淫らな衣擦れの音と、喘ぎが、暗闇の回廊に満ちる。
やがて、一際高い女神の嬌声とともに、二柱の神のぼりつめた。
重なった鼓動と呼吸がようやく落ち着いた頃、男神は女神を見上げた。
「ともに還ろう。そなたを迎えに来たのだ」
「ああ――嬉しゅうございます」
女神の瞳に、また涙が溢れる。
男神は頬を引き寄せ、くちづける。
くちづけては見つめ合い、またくちづける。
女神の涙が、男神へと落ちる。
それでも、男神は飽くことなく女神を見つめ、くちづける。
舌を絡め、互いの神気も神威も呑み込むかのように。
身体を繋げたまま、終わりを忘れるかのように、くちづけは続いた。