高天原異聞 ~女神の言伝~

9 咲いて散る花



「建速様!!」

 不意に、葺根が現れる。建速のもとへ駆け寄り、跪く。
 気づいた瓊瓊杵と咲耶比売、宇受売と神田比古も近づく。

「見つけたか? 葺根」

「は、確かに凝った闇の向こうに祖神様の気配を感じました。傍らに禍つ霊の気配も感じました」

「では、此処と繋げ。神威を使ってこじ開ける。伊邪那岐の神霊と禍つ霊の姉比売を取り戻したら、すぐに大神津実の処に跳べ。そこからは神威を使って豊葦原に戻る――日狭女」

「はい」

 宇受売が神田比古と、瓊瓊杵が咲耶比売と語らう間、黄泉日狭女は建速と闇の主について、黄泉国について、また伊邪那美について話をしていた。
 傍らで久久能智と石楠、闇山津見もそれを聞いていた。

「闇の主はまだ目覚めてはいないのだな」

「はい。今しばらくはかかるかと」

 闇の主のいつもの圧倒的な存在感が未だ消えていることを、日狭女は不安に思う。

「貴神《うずみこ》様。主様は、ただひたすらに黄泉国を愛しんでいるのです。あの方の振る舞いは全て我ら黄泉神のため。それ故、母上様を求めておいでです」

「それこそが誤りであると気づくことを願う。そなたはもう戻れ。我らと一緒にいることを主に気づかれれば後々困ることになる。何も気づかなかった振りをせよ」

「お心遣いありがたく存じます――」

 黄泉日狭女は、最後に、寄り添う二柱の神を見て微笑んだ。

「母上様、比売神様、そして、父上様、御子様。お会いできてよろしゅうございました。どうぞ、今生では離れることなくお幸せに」

「日狭女殿……ありがとうございます」

 礼をして、黄泉日狭女は黄泉国の大門の奥へと消えた。
 静かに、門は閉じ、辺りはまた静寂に包まれる。







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