高天原異聞 ~女神の言伝~

 美咲の勤務時間もそろそろ終わる頃、それまで自習室で勉強していたはずの慎也がカウンターに寄って来た。
 手には分厚い本を持っている。

「美咲さん、これ借りるね」

 図書カードとともに渡されたその本は翻訳本ではあるが洋書だ。
 題名を見ても、何の種類の本なのかはわからない。
 NDCといわれる分類番号を見ると、4が最初についている自然科学の本だった。
 確か慎也は理系の大学の進学を予定しているはずだが、勉強のためなのだろうかと内心美咲は思った。

「課題で使うの?」

「え? ――ああ、これ? 違うよ。さっき棚見てたら題名が面白そうだったんで読んでみようかと思って」

「――」

 もう一度、美咲は題名を見るが、堅苦しい題名で、どう見ても面白そうには見えなかった。
 だが、慎也はかなり頭もいいので、このような本でも面白く読めるのかもしれない。
 美咲なら、司書でない限り、絶対に触れることも読むことも無い類の本だった。
 バーコードを読み取るバーコードリーダーをハードカバーの裏のシールに付けて読み取りを終えると、貸し出し完了の機械音とともにレシートが出てくる。

「はい、終わった――」

 顔を上げて本を渡そうとした美咲の頬に慎也がくちづける。
 柔らかな唇の感触に何をされたか気づいた美咲が一瞬固まってから、我に返り、慎也から離れる。


< 50 / 399 >

この作品をシェア

pagetop