高天原異聞 ~女神の言伝~

 放課後、そろそろ5時を過ぎる頃、図書準備室に内線が入った。
 基本的に内線は山中がとる。
 美咲は外線担当なので、山中が受話器をとるのを横目でとらえて作業に戻ろうとした。

「はい、図書準備室――はい、私です。え? 今日、今から?」

 途中から山中の声音が険しくなる。
 顔をあげて、美咲は山中を見た。

「わかりました。すぐ行きます。はい」

 受話器を置いた山中は、すぐに立ち上がる。

「どうしたんですか?」

「もう、今日の見回りの先生が急な出張でいないから、明日の私達が繰り上がったって。私立高校ってこういうとこ杜撰なのよね。出張なんて一週間も前にわかるじゃない。急とか言い訳しないでほしいわ。忘れてたのよ、絶対」

 言いながらも、山中は手際よく机を片づけてコーヒーカップを給湯室へ持っていく。

「先生、おいといてください。私洗っておきますから」

「ホント? ありがとう! じゃあ、このまま行くから、戸締りよろしく」

 ロッカー室からバッグを取り出すと、山中は慌しく校舎に通じる渡り廊下へと消えていった。

「山中先生どうしたの?」

 カウンターにいた慎也が準備室を覗いて聞いた。
 午前中のことなど何も無かったかのように、いつもどおりだ。
 美咲も、さりげなさを装って答える。

「見回りが今日になったって」

「ああ、あの七不思議真似た悪戯ね。先生方も大変だ」

「そう――やだ、山中先生ったら、鍵忘れてる」

 山中の机の上には、たくさんのストラップがついた鍵がちょこんとのっている。
 美咲は鍵を取ると、カウンターの慎也に声をかける。

「職員室に、鍵を届けてくるわ。悪いけど、戻るまでお願い」

「いいけど、俺が行こうか?」

「大丈夫」



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