TAKE MEDICINE この世界で誰が正常でいられると?
「さっき言ってくれたよね。絶対に死ぬなんて決められていないって。だからあたし怖くないよ。あたし、生きて帰ってくるよ。そうしたらカラオケもプリクラも一緒に行こう」

その口調はなめらかで、わたしは宥められているような印象に陥った。
ミヅキはなおも放心しているわたしに微笑みかけると、ゆっくりと立ち上がってバラックへと歩いていく。

わたしはぱくぱくと口を動かしながらその姿を目で追っていた。
待ってと言いたいのに、行かないでと言いたいのに、言葉が出てこない。

「じゃあね。いってきます」

振り向きもせずにミヅキがそう言った。
その声音は明るく、まるで今から素晴らしいところに行くかのようだった。

わたしはいってらっしゃいなんて笑顔で返すこともできるわけなく、ただ放心して棒立ちするだけ。
だけどバラックにゆっくりと歩み寄るミヅキを見て、何か言わなくてはと必死で言葉を探した。
そしてすぐに言葉を見つけると、文章にもできず、言いたいことだけを叫ぶ。

「ねえ、なんで? なんで怖くないの? ミヅキは、ミヅキは、なんで怖くないの? 笑っていられるの?」

悲しくって、悔しくって、寂しくって。
気持ちをぶつけるように叫んだ。
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