LAST EDEN‐楽園のこども‐
連れて帰りたいのはやまやまだが、和樹の弟は、軽い動物アレルギーである。


一度彼が捨て犬を拾ってきたとき、三歳離れた弟は、一晩中くしゃみと鼻水が止まらなかった。


「無理、だよなぁ」


そうは言っても、一度腕に抱いた温もりを再びあの冷たい箱の中に戻すことは、できそうもない。


タオルにくるんだ仔猫を抱いたまま、しばらく立ち尽くす和樹に、偶然そこに居合わせていた涼が声をかけたのは、その直後のことである。


「何してるんだ」


足を止めてから、時計の長針がどのくらい動いたのか、考え事をしていた彼は気付いていない。


だが、雨の中をボーっと立ち尽くしている和樹を、涼が不思議そうに眺めるだけの時間はゆうに経過していた。


そうとは知らない和樹は、振り向いた先に人間がいたことへの驚きを、声を上げて表現しようと口を開けた。

それは恐らく、「わっ」とか「ひゃっ」といった擬音の類であることは違いないが、驚いている和樹より一足先に、涼が口を開く。


「捨て猫?」


涼の視線が自分の腕の中にあるのを知って、和樹はバツが悪そうに顔をしかめた。


「お前には関係ねーだろ」
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