LAST EDEN‐楽園のこども‐

記憶の箱

家に帰り、制服を着替えた涼は、南青山のBAR『aqua』のカウンターに肩肘をついていた。


「おっさん。猫のエサちょうだい」


おっさんと呼ばれた『aqua』のオーナー、片桐義人は、カウンターの中で野性的な匂いのする顔を若干しかめて、涼を見た。


「てめぇな……ここはバーだぞ、お洒落な大人の社交場だぞ。てめぇみてーなくそガキが堂々と入ってくんじゃねーよ」


「ふぅん」


 涼は、クルッと椅子を回して店内を見回した。


「何がお洒落だよ。ジジィとババァしかいないくせに」


その言葉に、義人の隣でアイスを割っていたバーーテンダーが顔色を変える。


義人は、腕組みをして呆れたように息を吐いた。


「お前ね」


「大丈夫だって。どうせ聞こえてないじゃん。この音量じゃ」


 店内には、義人の趣味のジャズ音楽が派手な音量で流れている。


「それに、黙ってりゃバレないよ。あたし、老け顔だから」


「そういう問題じゃないっつーの」


 義人は、長い前髪をかきあげた。


「どうでもいいから、猫って何食うのか教えてよ」


 すると、義人は意外そうな声を出した。


「お前、それマジな話なの?」


「超マジ」


「なんで?」


「なに? 何か悪いわけ?」


「いや、悪かないけど、意外っていうか、似合わねーっつーか」


 義人の本気で驚いている顔を見て、涼は若干ムッとした。
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