捨て犬な彼 ─甘えんぼクンと俺様クン─

朝…あたしは今、かなり苦戦しながらお粥を作っている。


今日が土曜日だからいいものの、平日なら完全に遅刻。


「できたっ!」


昨日の彼が目を覚ましたからだ。


「出来たよ。美味しいか分かんないけど…」


「いただきまーす」

お粥が入った茶碗を彼の前に置くと、スプーンを取って元気に食べはじめた。


彼はやっぱりイケメンで、スタイルも良かった。


でも…


「ねぇ、記憶が無いって…本当なの?」


そう。彼は昨日までの記憶がないのだと言う。


自分の住所や、なぜ昨日あそこにいたのかは愚か、名前すら覚えていないみたい。


なのに本人は、口の周りにごはんつぶを付けて、にこにこしながら頷く。


「うんっ」


なんでこんなに普通にしていられるの…


「ごちそーさま!美味しかったよ!」


満面の笑顔。やばい…ずば抜けてかっこいい…てか、可愛い…


赤くなりそうな顔を隠して冷静を装った。


「ありがと……ねぇ、じゃあ何て呼べばいいの?」


たぶん年はあんまり変わんない。ちょっと上かもしれないけど、一応家においてあげてるんだからタメ口でいいよね。


「んー…そうだなぁ…なんでもいいけどねー…」


なんでもいいって…


「なんでも?」


「うん。なんでも。何か決めてよ」


「決める?あたしが?えー…犬や猫じゃないんだから…」


「いいからいいから!」


「えーっと…えーっと…」

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