久遠の花〜 the story of blood~
〝戻る時は――近い〟
音が、辺り一面に響く。どこから聞こえるのかと再び見渡せば――突如として、大きな鏡が目の前に現れた。透明なそれは、私以外映していない――はずなのに。
鏡に映ったのは、紫色の瞳をしていた。
*****
仕事を終えた桐谷は、足早に家路へと向かっていた。美咲の様子が気になるのはもちろんだが、今彼の気を速めているのはいるのは、それだけではない。
……つけていますね。
人ではない気配を感じ、桐谷は家とは別の方向へ足を向かわせた。
「――出て来ていただけませんか?」
人気の無い場所へ着くなり、桐谷は自分を追って来たであろう人物に呼びかける。それに現れたのは――。
「失礼します。――私は木葉。華鬼(かき)の長より命を受けた者です」
二十代後半に見える、男性だった。
「違うならば、すぐに立ち去ります。貴方は、華鬼の長と面識がありますか?」
「もしや――蓮華さんのこと、ですか?」
その言葉に、男性は安堵の表情を見せた。
「はい。その蓮華様より、貴方を探すようにと言われまして」
「!? 目覚めたの、ですか?」
「一応は……。まだ不安定なのか、今はまた、眠りにつかれていますが」
「そう、ですか。彼女には、随分と手間を取らせてしまいました」
何か思い出しているのか。桐谷の表情は楽しげで、同時に何処か、悲しげでもあった。
「彼女が自ら動くのは――やはり、それなりのことが?」
嫌な予感がしてならない桐谷。その言葉に、木葉は頷いてから、今起きようとしていることを伝えた。