久遠の花〜 the story of blood~


「もしかして……なにか、危険があるんですか?」


 不安を口にすれば、月神君は首を横に振る。


「危険は無い。ただ――今から、向こうに行くことになる」


 向こうにって……ここから、出てもいいの?


「ま、まだ回復していないのに、外に出るなんて――?」


 途端、体から力が抜けていく気がした。

 体はベッドに倒れ、これでは行けそうにないと告げれば、月神君は問題無いと言い、私を抱えた。


「……こんな、状態じゃ」


 匂いが強くなれば、襲われる確率だけでなく、月神君にかかる負担も大きくなってしまうのに。


「月神君、に。迷惑が……」


 徐々に視界が歪んでいき、瞬きをするのも重くなる。





「早く――行こう」





 そう言った後の月神君の表情が……どうしてか、泣いているように見えた。あまりにも辛そうに見えたから、なんとか手を動かし、





「どうし、たの……?」





 そう問いかけ、そっと、月神君の頬に触れる。途端、手になにかが伝った。よく見れば……それは、月神君の涙だった。





 なんで……泣いてる、の?





 その疑問に答えることなく、月神君は黙って、部屋を飛び出した。

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