久遠の花〜 the story of blood~


 でも、やっぱり思い出すことはできなくて。


「すみません。どこで会ったのか、思いだせなくて……」


 悪いと思いつつ、正直に、覚えていないことを告げた。

 すると少年は、気を悪くする素振りもなく、笑顔で近付いてきて、


「ははっ、まだわからないんだ?――夜、オレと会ったでしょ?」


 今まで聞いていた明るい音声とは違う、全く別の低い音声が耳に入った。

 それはとても大人びていて――私に、あの夜のことを思い出させた。



 もしかして……この人。



 私に迫って来た男性ではないかと、そんな考えが浮かぶ。

 よく見れば、瞳はあの夜に見たのと同じ、淡い緑色をしていて――怪しく微笑む様子は、まさしく、あの時に見た男性だった。


「あ、大丈夫だよ。アンタを襲ったりしないから」


 再び明るい口調で言うものの、目の前にいるのがあの男性――もとい、少年だとわかってしまえば、体は自然と、距離を保とうとしていた。

 じりじりと後ろへ下がる私に、少年はどこかつまらなそうな表情を浮かべる。


「そ~んな警戒しないでよ。ん~どうやったら信用してくれる?」


 そんなこと、逆にこっちが聞きたい。あの日のことが夢でないなら、目の前にいる人は危険だと、そのことを知っているから。


「なにかしゃべってくれないと困るんだけどなぁ~。――よし、じゃあこれからデートしよっか!」

「!?……今、デートって言いました?」


 あまりにも予想外な発言に、思わず聞き返してしまった。

 さすがにこの瞬間、緊張の糸がぷつりと途切れた。


「お、やっと口利いてくれた。オレがどんなヤツかわからないから怖いんでしょ? だったら、親睦を深めるってことで」


 ね? と、少年は笑顔全開で言ってのけた。

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