wild poker~ワイルドポーカー~
追憶 【side‐A】

『……千尋』

どこか遠くで……誰かの声がする。

それは優しく俺の名を呼び、そしてその声の正体を、俺は知っていた。

ゆっくりと目を開けば、眩しい白い世界の中に、愛しい《彼女》の姿が見える。

彼女は俺に寄り添うように座ったまま、俺の肩にそっと身体を預けた。

『ねぇ、千尋。もしも名前を付けるなら……千尋だったらどうする?』

そんな彼女の《懐かしい》問い掛けに、小さく笑みを浮かべる。

……名前。

そうだな……それなら……

俺の唇が震え、その《名》を告げる。

すると《彼女》は穏やかな笑みを浮かべ、それからコクリと頷いて見せた。

……それは遠い昔の、懐かしい《記憶》

しかしそれは静かに白い世界の中に溶け、そして遥か彼方から音も無く深い闇が迫り来る。

……そう、あの世界には戻れない。

俺はこの《悪夢》の中で、《戦い》続けなければならないのだから。

そんな考えが浮かんだその瞬間、全てはどこまでも深い闇に呑み込まれ……そして何も見えなくなった。
< 382 / 449 >

この作品をシェア

pagetop