vivid
 さて、手駒は揃った。


 あとはもう兎に角やるしかない。生きるか死ぬか、なるようにしかならない。

"賭けだろうがなんだろうが、やるからには勝つ"

 "白狩り"の生き残りの台詞が、ふと頭に浮かんだ。

 思わず頬がゆるむ。

 そう、アタシは勝つ。

 例え勝てる気はしなくとも負ける気だってしない。

「なにニヤけてんだよ、キティ」

 老成した色気のある低い声がアタシを呼んだ。

 城門の前、立っていたのは顔もろくに覚えていない門番ではなく声も顔も性格も、よく理解している男だった。

「わざわざお出迎えかい?グラン。門番はどうした」

「下がらせた。たかがクールの九番部隊隊長とはいえ俺だって幹部だ、このくらいの横暴は構わんだろ」

「随分とまあ可愛らしい横暴だねぇ」

 こうやって、からかうような口調で何を言ったところでグランは思うような反応をくれない。

 からかっているつもりでいるのはアタシの方なのに、その度ひどく優しい目で見つめられるものだから逆手にとられているようで気にくわない。

 それでもまあ、なんだかんだ言っても許せてしまうのは、この男がアタシにとって保護者的な存在であり、幼少の頃からのアタシを知る数少ない人物であるからだと思う。

 城内の人間の中でグランほど信頼に足る人物は、他に存在しない。

「まあ、そう言うなよ」

「言いたくもなるよ。アンタその様子じゃさっきまで寝てたって感じじゃないのさ。慌てて起きて来たのかい?」

 年のわりに老けて見えない顔に珍しく動揺の色が見えた。

 軍人らしい体格には似合わない、無造作に撫でつけられたねこっ毛はいつも通りだが、どこか眠たげな表情だった。

 気まずそうに咳払いをしたグランがおもしろくて思わず笑ってしまう。

「誕生日おめでとう………なんだよ、いいだろう、別に。日付がかわる前に、ちゃんと言っておきたかったんだ」

「そうかい?じゃあ、ありがとう、と言っておくよ。成人の儀のことを思うと全く有り難くないけどね」

「本当は今日やるはずだったんだろ?陛下の癇癪持ちも、お前さんの放浪癖も相変わらずだな」

「まぁた暴れたのかい、ヘーカは」

「いや、お前さんが居ないと知った途端、食ってた飯ひっくり返して、朝以外は何も食ってねぇみたいだな」

「まるで子どもだよ、本当に……悪い、世話かけたね」

「だったら端っからから成人の儀すっぽかしたりするな」
< 60 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop