密会は婚約指輪を外したあとで
「あ、愛人?」

「兄貴の婚約者なんだから、似たようなものだろ」

「でも。そんなのよくないと思います」

「あんた、真面目なんだな。騙されていたようなものなのに、悔しくないわけ?」


拓馬さんは心の裏側を透かすように覗き込んだあと、私の手首を放した。


「まあいいや。とりあえず、明日の昼間、空いてる?」

「えっ、明日ですか?」

「空いてるよな、暇そうだし」


失礼なことを言いながら連絡先を要求してきたので、仕方なくスマホを出す。


「じゃあ、明日連絡する」

拓馬さんはマンションの近くにある地下鉄の駅まで送ってくれて、そこで私たちは別れた。
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